電気と音の話

第3回目のコラムを書きます,武岡です。
電気電子工学科としてはマニアックな(?)音響に関する研究をしています。
音響と言うと,コンサート会場で音量を調整している人を想像するかもしれませんが,例えば音響学会でよく論じられるテーマのうち,中身が想像できそうなものを適当に並べてみると,音声認識・音声合成・聴覚・心理・音源の分離・高臨場感再生・音楽・建築音響・騒音・超音波・・・という感じなので,音響学自体は例えば静岡理工科大学のどの学部・学科でも研究対象になり得る非常に裾野の広い学問です。その中で,私は電気音響と呼ばれる分野のうち,凄く簡単に言うと新しいスピーカ・新しい音の再生方法を日々考えています。
例えば,皆さんが普段音を聞くときに使っているスピーカ。そのほとんどが動電型スピーカと呼ばれるもので,磁石の近くに電線をグルグル巻いたもの(にコーン紙をつけたもの)を置いて,物理で習う“フレミングの左手の法則”で動いて音波を発生させています。(ちなみにこれらの振動の計算をする時にも,さらには上記の音響学のテーマのほぼ全てにおいて微分・積分・サイン・コサインは重要なツールになっていて,もし「数学が何の役に立つのかわからなくてやる気がでない」という人が読んでいたら安心してください。とても,とても役に立ちます。)この方式は100年間基本原理が変わらずに作り続けられており,技術としては完成されつつあると言えるでしょう。
しかしながら,音は何かが振動していれば発生する自然現象なので,電気信号を音に変えること自体は色々な方法があり得ます。動電型以外に実用化されている例としては電圧が加わると変形する圧電素子を用いた圧電スピーカや,静電気の力で振動膜を吸い寄せるコンデンサスピーカなどがあります。また,私たちが研究している例としては,音波が空気中を伝わっていく途中で少しずつ変形する特徴を利用して通常のスピーカではあり得ない様な鋭い音のビームを生成するパラメトリックスピーカや,空気を暖めた際の熱膨張を利用するサーモホンの技術を使った印刷できるスピーカなどを試みており,それぞれ既存のスピーカには難しいような音の再生が実現できる可能性があります。
最も挑戦的な例として学生時代の試みを紹介します。写真は水滴を蒸発させて,水が蒸発して気体になったときの膨張を利用して音を再生するスピーカを実験した時のもので,原理としては新しいのですが今でも何の役に立つのか模索中です(笑)。大学の研究のいいところの一つは直接的な利益を追求せずに自由な発想を試みることも許される点だと思っていて,まだ誰も実現したことの無いようなことを自由な発想で挑戦する,そんな楽しさも大学にはあります。

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